これは、自閉症の当事者を主人公にした近未来小説です。これを読んだ頃、私は双極性障害はおろか、うつさえ発症していませんでした。それでもとても印象に残っていて、今の状況に関連がある事が書かれているような気がするので紹介します。
主人公たちは自閉症者ですが、パターン認識に優れた特性を活かし、製薬会社で有用な化学物質を発見する仕事をしています。社会保障や福利厚生も手厚く、周囲の理解もあり、多少不自由だけれども社会の一員として受け入れられ、幸福な暮らしをしています。
しかしある時、彼らの存在を無駄と考えた野心的な人物が、社内再編を目的に、折しも開発されたばかりの自閉症治療法の最初の被験者になるよう、話を持ちかけてきます。治療は脳神経の再編を行うものだという説明を聞き、彼らは大変動揺しますが、やがてそれぞれの選択をします…。
大体、こういうストーリーなのですが、彼らが「ノーマル」になる事によって「世界を認識する方法が変わってしまったら、今までの自分と同一人物であると言えるのか」「脳神経の再編をして記憶は無事に残るのか」「今までの人生を捨て去る事になるのではないか」と葛藤する姿が心に突き刺さります。
「本当の自分とは」この言葉は双極性障害のグループワークで、よく出てきたキーワードでした。気分を安定させるとは?一体どんなレベルで安定させるのか?目指すべき自分の姿とは何か?私は、そういうものは、ないのではないかと常々考えています。だからもし私が、この小説のように「双極性障害の治療法ができました。脳の再編をする方法です」と言われたら、やっぱり相当な葛藤に陥るだろうと思います。病気と自分の境目なんてないのですから。
思えば「私とは何か」というのは普遍的な問題です。病気になったせいで小説で描かれるような事を日常的に考えるようになってしまった自分の境遇が、ちょっと不思議でもあります。以上、双極性障害とは直接関係ありませんが、最近改めて気になった一冊です。
SHUSA-K
○性別:男性
○年齢:5o代
○診断名:うつ病→双極性障害
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