『世界にひとつのプレイブック』

映画『世界にひとつのプレイブック』(Silver Linings Playbook、デヴィッド・O・ラッセル脚本・監督、マシュー・クイック原作、2012年)をご紹介します。以下、ネタバレのないようになるべくストーリーには触れずに書きましたが、偏った感想かもしれません。あしからず。

2013年のアカデミー賞主要部門を総なめにして話題となった作品ですが、登場人物が双極性障害という設定に注目したいです。ただし作中において主人公パットとティファニーの鬱の描写はほとんどなく、それぞれ躁状態の衝動的かつ攻撃的な様子が主立てて描かれています。個人的にはいろいろ共感し難く、正直これを見て「躁鬱=ただ乱暴で困った人」という印象を抱いてしまう人もいるのではないかと少し心配になりました。

しかし最近もう一度見てみたところ、以前より細かい設定や演技にも気がつき、パットとティファニーの激しい言動・症状の裏にはその要因となり得る繊細な事柄も潜んでいるように思えました。例えばパットのお父さんはギャンブル好きで気性が荒く、家庭環境や遺伝といった因子について考えさせられました。

ティファニーにおいては、おそらく当事者間でも差が大きくタブー視されがちな症状が顕著です。そんな自分を悔いずにむしろ胸を張って「走る」姿勢が彼女の魅力でもありますが、トリガーとおぼしき背景が語られるシーンは見過ごせません。彼女の奔放な行動は社会生活に大きな支障をきたしてしまうのですが、ひょっとしたらタブーを打ち破りオープンに表現することもこの作品のねらいだったのかなと思いました。

また、パットもティファニーもそれぞれ「トラウマ」的出来事を体験しています。その体験から生じる痛みや情動と素直に向き合いながらも、幸せに向かって生きていくふたりの姿は勇ましかったです。個人的に広義の「トラウマ」と「喪失」をテーマに据えても鑑賞できる作品だと思います。それだけに、その点に関してパットの主治医は荒療治が過ぎるんじゃないかと腹立たしく感じる場面がありましたが、映画的には必要な演出だったのかもしれません。

物語が上手くまとまり過ぎているな、とか、ダンスシーンではステップがもう少し見たいかも、とか、つっこみどころもありましたが、比較的リラックスしてユーモアも楽しめる一本だと思います。