対策への注力のされ方における双極性障害とHIVの比較

「薬の一包化」でODを防止』というナレッジを読んでみました。確かに双極性障害に限らず、精神疾患のお薬は種類が多かったりして飲み忘れがあり、ODにつながってしまう場合もあるでしょう。もし、双極性障害のお薬が錠剤1個だけ、しかも1日1回だけ服薬するば良いならば、そもそもODは起こらないでしょう。しかし、現在の医学では双極性障害に、ピンポイントで効果があり、切れ味の良い特効薬は開発されていません。てんかん等の他の薬が双極性障害のうつに効果がある、また別の薬は軽躁に効果があると、いわば他の薬の力を借りて症状の悪化をしのいでいる状況です。

一方で、HIVの抗ウイルス薬は、1日1回1個だけで、ウイルスの増殖を抑えることができます。当然、飲み忘れもODをするHIV陽性者はしません。陽性者は、月1回クリニックに行き、診察を受け、処方箋を医師に書いてもらうだけ。私たちの自立支援と同じ、更生医療という制度で、1割負担です。負担金は若干高く、月1万円くらい。なぜ、1日1回1個の薬で、ウイルスの増殖を抑えられるかと言えば、お薬が攻撃するウイルスが明確にわかっているからです。しかも、90年代の末にカクテル療法という画期的な治療法が開発されました。数種類のお酒をカクテルに入れて混ぜるように、数種類の抗ウイルス薬を各人の症状・体質に合わせて組み合わせて処方できるようになったのです。こうして、HIV陽性者も何種類、しかも飲みにくい大玉のお薬を服薬せず済むようになりました。しかし、陽性者数は、毎年1,600名程度、以前より少し減りましたが、新規感染者は増えています。

私自身、10年ほど前、HIVの予防啓発NPOのボランティアをしていたことがあります。そのNPOは当時、東京都から約2,500万円くらいの委託費を受けて電話相談や専任の相談員(社会福祉士)の給料に充てていました。自治体や国がHIVの予防啓発に熱心なのは、80年代前半に非加熱製剤により、多くの血友病患者がHIVに罹患し、疾患が進行してAIDSで亡くなったからです。明らかに当時の厚生省の責任でした。厚生省は、その後、血友病患者団体と和解し、ほぼ半永久的にHIVの治療、予防啓発をせざるをなくなったのです。お薬の開発・進化と予防啓発が新規感染者をかろうじて現状の数字にしています。HIVには国内外合わせて、予防のための予算が大量に投入されています。

しかし、双極性障害については、分母が小さいせいか、ピンポイントのお薬の開発や重大な疾患であるということが世間に喧伝されていません。その理由の1つは、精神障害や精神疾患に対するスティグマがあり、最近ようやく、うつにはついては長時間労働で過労自殺した事例があり、働き方について議論されるようになったといったところだと思います。 双極性障害当事者が、医師や研究者、また非当事者に働きかけ、効果的なお薬を一刻も早く服薬できるようになることを願ってやみません。