『アバウト・ア・ボーイ』

映画『アバウト・ア・ボーイ』(About a Boy、クリス&ポール・ワイツ監督、ニック・ホーンビィ原作、2002年)は、双極性障害についての映画ではありませんが、それっぽい人物が登場するので彼女に焦点を当てて紹介させていただきます。

親の遺産で悠々自適に暮らすアラフォー無職のウィルが、母子家庭でいじめられっ子の少年マーカスと出会い翻弄されていくうちに、自分の人生にも真剣に向き合うようになるというあらすじ。ロンドンを舞台にしたコメディーです。

少年マーカスの母フィオナは時折、突然、鬱になります。最愛のお母さんの辛そうな様子を見る度、マーカスは戸惑い胸を痛めます。しかしそんな母フィオナは自由奔放で愛情深いひとでもあります。感情に忠実に行動し、周囲の空気なんて読みません。一見大胆なようですが、純粋で繊細な感性が世間とズレてしまう場面も多々あります。このような特徴は、単極性の鬱というより躁鬱気質にみえます。作中で彼女の診断名は明言されていませんし、これはあくまでも私個人の印象ですが、他人事とは思えない部分がありました。

シングルペアレント、いじめ、メンタルヘルスといった問題を扱いながらも土台は痛快なコメディーで、大人たちの不器用な恋愛も見ものです。重過ぎず、軽過ぎず、くさ過ぎず、良い塩梅で楽しめます。キャスティングも絶妙でした。伊達男/ダメ男キャラはヒュー・グラントの得意分野だと思いますが、フィオナを演じたトニ・コレットもとても魅力的で、レイチェル・ワイズの理知的な美しさにもしびれます。そして何より少年マーカス役のニコラス・ホルトは、とても自然な演技で、大人たちに勝るとも劣らん存在感を放っていました。

いろんな側面から楽しめて、何度見ても笑って泣いてしまう作品です。(※と言いつつ鬱の描写はそれなりに深刻なので、鑑賞される場合はご自身の体調等とご相談ください。どうぞご無理ありませんように。)